『GANTZ:O』は映像全振りで創作表現の可能性を広げた!【ネタバレ無】

異星人とのサバイバルゲームを描いた奥浩哉さんの大ヒットコミック『GANTZ』を、現時点の日本における最高品質の3DCGアニメーションで映像化した作品『GANTZ:O』。

もう初めに感想を言ってしまいますと、この映画の最大の功績は、漫画の映像化に際し「日本ではアウェイ」だと分かっていながらも(出典元)、あえてフルCG映画という方式を選び、そして見事それを成功させたことです。

正直、映画的な見せ方や、演出、ストーリーの巧さはなかったです。むしろヘタでした。しかし、そういうマイナスをかき消すほどの「映像のすごさ」をガツンとみせてくれます。

正直、映像だけでここまで評価したくなった作品は初めてかもしれません。

つまりこの作品、「目を見張る映像」と「忠実なGANTZワールドの雰囲気」が全てなので、逆に言えば劇場のスクリーンで観ないとあまり意味がないです。

もうこのツイートがこの記事で言いたいことを全部言ってくれています。



というわけで今回の記事では、特に『GANTZ』を全く知らない人に

①この映画の映像的な魅力を伝える
②期待すべきでないところもちゃんと示して、いい塩梅にハードルを下げていただく

ことを目的とします。そして、最良の期待レベルでこの映画を体験していただけるようにしたいと思います。

(従ってネタバレはもちろんナシ。また、原作との違いや話の再構成の巧さ、設定変更の妙など、『GANTZ』ファン向けのアピールポイントについては触れません。あしからず)



〈あらすじ〉

高校生の加藤勝は、地下鉄で起きた事件によって死ぬ。ところが次の瞬間、マンションの一室にいた。加藤はそこで、リーダーが不在の東京チームと一緒に火の手が上がる大阪に転送され、サバイバルゲームに参加することになる。大阪チームと遭遇し、妖怪型の星人軍団=百鬼夜行と戦いを繰り広げる加藤。一人で待つ弟のもとへ生還するため戦い抜く加藤の前に、大ボス“ぬらりひょん”が現れ……。(引用元)



■注目ポイント1. 背景

背景のグラフィックは実写と見紛うほどのクオリティです。

夜の道頓堀の怪しげな雰囲気と生活感。車、地面のタイル、橋、電飾......。こういったもののリアル感が本当に凄い。

「死んだ人間が突然転送されて道頓堀で妖怪と戦う」という意味不明な設定で、作中でもそこが掘り下げられることはないのですが、この圧倒的なクオリティの背景によって難なく作品世界に没入できます。「今の3DCGってここまでリアルなのか」と思う瞬間が何度も訪れます。

さらにダメ押しの一手で、脚本構成も最初の1分で観客を『GANTZ』ワールドに引き込むような作りになっています。そもそもこういったハチャメチャアクションがニガテという方でもない限り、興醒めせずに鑑賞することができるのはまず確実だと思います。



■注目ポイント2. 夜に映える美しい武器とスーツ

サバイバルゲームに挑むメンバー達は、いずれも「ガンツスーツ」という特殊スーツを着用しています。また、武器にはXガン、Yガン、Zガン、ガンツソードといった、これまたユニークなものを使用します。

スーツも武器も、黒地で青い光を放つというデザインで統一されているのですが、

これがとんでもなく美しいです。

しかも、舞台になるのは夜なので、余計にこのスーツや武器たちが映えるのです。これぞまさに3DCGならではの美しさで、リアルながらもある程度デフォルメされていないとあの美しさは出ません。

こんな巨大ロボットも登場するのですが、これもまた3DCGという表現方法の強みをよく表しているシーンです。実写でやるとウソっぽくなり、アニメーションでやると迫力やリアリティに欠けてしまうような表現も、リアルとフィクションの中間的な描写に長けている3DCGならば難なくこなせるのです。



■注目ポイント3. 不気味な妖怪たちと3DCGのマッチ

『GANTZ』の醍醐味の一つは、そのシュールな世界設定です。

この作品は普段我々が生きる日常の世界、すなわち現代を舞台にしていて、その描写もかなりリアルですし、登場人物もただの一般人です。

そんな慣れ親しんだ世界を異星人たちが闊歩するという非日常感。一般人がいきなりサバイバルゲームをさせられるという意味不明の理不尽さ。こういったものが我々に得も言われぬ恐怖と緊張を感じさせるのです。

今回の舞台は道頓堀で、ぬらりひょんや天狗など、敵は日本のスタンダードな妖怪たちです。大阪の街で妖怪たちが蠢くシュールさ、ぬらりひょんが飄々と歩いてくる不気味さ。これが本当にうまく表現されています。

その秘密は、リアルとフィクションの巧妙な使い分けと相乗効果です。注目ポイント1で述べたように、街などの背景描写はとことんリアルで精巧になされているのですが、一方で、敵となる妖怪たちのグラフィックにはどこかちょっとウソっぽさがあります。これによって、日常に巻き起こる非日常の不気味さという、『GANTZ』のあの独特な世界を見事に表現できているのです。まさに3DCGの強みが存分に活かされる作品だと言えるでしょう。日常成分はとことんリアルにし、非日常成分はちょっとウソ臭くする、といった絶妙な力加減の調整ができるのが3DCGなのです。



■注目ポイント4. 人物

人物のCGには相当苦労したと思います。何せ、デフォルメの加減がちょっとでもうまくいかないと、それだけで作品全体が嘘くさく見えてしまうからです。

それを、この映画はまた絶妙な塩梅で見せてきました。

皮膚や髪の質感、眼球の輝き方など、リアルなところはリアルにしながらも、全体として見ればちゃんと架空のキャラクターだと分かるという、本当に絶妙なバランスです。

写真で切り取ってしまうとマネキンっぽさはやはり出てしまうかもしれませんし、実際慣れないうちは不自然さがあるのですが、動くとちゃんと人間らしく感じます。独特の不自然さも、話が進みアクションシーンが続いてゆくとそれほど気にならなくなります。

個人的には、背景がリアルな分人物のCGっぽさが浮いてしまっていて、また声も最初のうちはそのキャラの口から発声されているように聞こえないことがあったので、そこは改善ポイントだと思いますが、それでもよくやってくれたと思います。

キャラの動きや表情にはモーションキャプチャーを用いています。つまり実際の役者さんが演技しているのですが、そのおかげでゲームキャラのような動きのぎこちなさはほとんどありません。むしろ自然すぎて、芝居がかった大げさな演技(主に山咲の)が鼻につくことがありました。ただ、表情に関して言えばやはりぎこちなく、感情が分かりづらかったので、ここも改善ポイントだと思いました。



■注目ポイント5. とにかく映像!

注目ポイント1~4が示す通り、映像は本当に一級品です。これでストーリーや見せ方が良ければ歴史的な映画になっていたと思うのですが......。

従って、この映画を観るなら「映像に全振りの映画を観に行く!」というくらいの心構えで臨むのがベストだと思います。

言ってしまいますと、お話の運びは単調でとくに褒めるところもありません。戦って戦って戦うだけです。そういう映画の場合、人間ドラマみたいな成分を混ぜて飽きさせない工夫をするのが定石で、実際そういった狙いのシーンもあるのですが、これがまた絶望的にヘタです。

でも映像はすごい。

とくに人物の感情、誰かを守りたい気持ち、生き残って帰りたいという気持ちの蓄積や伝え方が単調で甘いです。仲間がやられても「ああそうか」という感じですし、ロマンス描写にも違和感があります。

でも映像はすごい。

最初は妖怪がワラワラ出てきて面白いし、街のいたるところで戦いが繰り広げられてる感があって楽しいのですが、 だんだんとメインのキャラにフィーチャーし始めてしまいます。なぜこれが問題かというと、メインには弱い奴らしかいないからです。弱いこと自体は良いのですが、ならば面白く見せるための工夫はもっと必要だったでしょう。

でも映像はすごい。

他にも、「こんなときにバイト? 大阪すげーことになってるぞ」のセリフが不自然とか(観ればわかります)、キャラが心情や状況をベラベラ喋りすぎとか、いまいちカットや構図が盛り上がるものじゃないとか、映画的な見せ方もあまり上手くないとか、映像以外を求めてしまうと文句は多分に出てきます。


繰り返します。

でも映像はすごい。

とにかく鬼のようなクオリティの映像です。そしてそれによって醸し出されるGANTZワールドの独特な雰囲気、圧倒的な没入感、今まで見たこともない3DCGの可能性とパワー......。もうそれだけで映画ファンならたまらなくなると思います。あまり感情的に盛り上がれないことがあっても、「でもあの映像はヤバかった!」という感想に落ち着いてしまいます。それだけ映像的な魅力が凝縮されているのです。


(※とはいえ、脚本で気に入った点も1つあります。以下のツイート参照。ネタバレなので鑑賞後にご覧ください。ツイート文末のリンク先で全文読めます。)


そして『GANTZ』という作品と3DCGの相性の良さに度肝を抜かれます。見方を変えてみると、2Dアニメでも実写でもなく、3DCGこそがバッチリハマる作品というのは他にもあるでしょうし、そういう作品のためのレールを敷いたという点で、この映画が創作にもたらす恩恵は莫大なものだと思います。

何度も言いましたが、3DCGの強みはリアルとフィクションを絶妙な力加減で操れることです。これによって、3DCG以外ではできなかった表現・演出ができるようになります。まさに第三の道を照らした作品、創作表現の可能性を広げた作品であると言って良いと思います。



これまでにない映像体験をされたい方、ぜひ劇場へ。


おまけ



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